「絵に描いたようなこんな部屋をどうやって見つけたの?」

同じような姿勢の金山に桂は訊いた。いつになく金山は饒舌だった。

「このアパートは親戚の持ち物でね。天井裏を改造してもらったんだよ。といってもホコリやススを取り払って、畳を敷いただけだがね。あ、そういえば外壁にここに通じる階段を付けてもらった。あれはひとりだけの専用階段だから時間も足音も気にせずに出入りできる。この真下の部屋も物置になっていて人は住んでいない」

「酔狂だなぁ」

「いま気付いたんだけど、屋根裏とは天井の裏でもあるわけだ。どっちから見ても裏というのがおかしいね。ふたつの裏に挟まれていると心身の抵抗感も二倍だ。オレにはもってこいだよ」

当時一度燃え尽きた身体に新しくどんな火種を入れるか金山はずっと苦慮しているのが桂にはわかった。上段に構えていた棒がいつしかかつての仲間を背後から叩くための武器となり、道ばたの石ころやふっと心に湧き出ることばはかつての友らを追いつめる道具だった。信じられないような成り行きとなったがそれは目の前の現実だった。元を辿れば自分らに原因があると思った。身体の底にまっとうな燠は残っていないか。どうすればもう一度炎をあげることができるか。早々と大学に見切りをつけ屋根裏部屋の蜘蛛の巣にみずから囚われの身となりながら金山は出口であり入り口であるような通り穴がどこかにあるはずだと思案し続けたのである。

その金山が一切の注釈なしに招待状を送って寄越したのだった。金山らしい所行といえた。そこに含羞の匂いを感じた。はじめて金山と逢ったときにも桂は紅顔の美少年という古くさい言葉を思い浮かべた。どこか茫洋とした雰囲気があった。その印象はずっと変わらなかった。

『内ゲバか?  学生ら大けが』という見出しの記事が地域面に出るたびにやった者やられた者が知人であれ見知らぬ他人であれ金山は居ても立ってもいられなくなる。その夜も突然やってきて「飲もう」と桂を誘い出した。やはりなんの論評も弁明もしなかった。五叉路の一角、銀行のシャッターを背に明け方近くまで営業しているアパート近くのラーメン屋台に行った。