明代はクリスマスプレゼントとしてモンブランの万年筆を桂に渡した。桂は明代自らがラッピングした箱から取りだしてマチスの絵をあしらった浅黄色の包装紙の裏に「ちゃ色の人」と書いた。黒いインクが迸るように流れて太い文字となった。試し書きのつもりが思いがけず「慈しみが宿り/深い知恵が湧きだし/勇気が走る/太古より人が生きる場所に佇(た)つ/きみの虹彩はちゃ色」明代のことであり、桂には慈しみも知恵も勇気もすべて欠けているものだった。

「うん、当たっているかもね」

そう言うと明代は包装紙をこわれ物を扱うようにていねいに折りたたんでバッグにしまった。口元がへの字に歪み、目からはいまにも涙が出てくるのではないかと思えた。はじめてみる嫋嫋とした明代の姿だった。

「なんか嬉しいイブになりそうだわ」

松村さんのアパートに向かった。七つの川のうちいちばん東側の猿猴川を渡り、宇品港に向かう支線の踏切を越えたところにアパートはあった。シルバーから歩いても三十分とかからなかった。ボーイッシュな松村さんを彷彿とさせるような清々しい部屋だった。六畳間の片隅に赤い牡丹柄の布団が一組束ねて置いてあった。ベッド代わりの万年床を今夜だけは片付けておいたという風にも、押し入れからわざわざ取り出してどうぞ自由に使ってくださいというメッセージのようにも思えた。

「わたしたちにね、自分の部屋を提供してくれたの。気をきかせてくれたんだけど、そんな必要ないよね? ある? やっぱりないか。好意は無にできないので訪ねたという痕跡だけは一応残しておこう」

明代は冷蔵庫を開けて「おなか空いてるのなら何か作ろうか」と言った。

「飲み物だけで十分」

明代はシャンパンとモンブランケーキを二つ取り出してテーブルに置いた。

「なんでも揃えてくれている。良妻賢母って、彼女のような人を言うんだろうね」