島全体が雑木林におおわれ中央が小高い丘になっていた。海面から数メートルの高さに周回遊歩道が張り巡らされている。柵がないので一歩踏み外せば二人して海に落ちるかも知れない。あやうい散歩道だったが、いただきに通じる小道が随所にあった。そのひとつに紛れこんで、木々を縫って五分も登ると、真っ平らな砂利敷きの広場が現れた。一基の照明灯ですべての風景がよみがえっていく。すでに深夜に近い時刻になっていた。

広場のど真ん中にはコンクリートの台座が設(しつら)えられその上に巨石のモニュメントが立っていた。船の帆をあしらっているようにも、休止中の噴水塔のようにもみえた。

「なにかなぁ?」

「日時計よ」

  明代は自信ありげに答えた。

「来たことあるの?」

「ううん、直感よ。学生の頃、稚内で見た最北端の記念碑に似ている。北極星の一稜をかたどったと説明されていたけど、これがもし日時計だったら時間は永遠を刻むのかなぁ、と思った。右手に太陽が沈んでいく直前だった。そのときのセンチな自分を思い出したの」

闇に慣れた目でまわりをみわたすと南の方向は眺望が開けていた。北側だけは高い木々で遮られている。

二人は南に面したベンチに坐って夜明けを迎えた。肩を寄せ合ってそれ以上どこにも触れず六時間余りを過ごした。何をするでもないのに一睡もできなかった。お互い深いところで通じ合えるような気がした。自然な感情のままにふたつがあることなどは壹岐と知り合ったとき以来だった。朝陽が昇ると巨石モニュメントの影がちゃんとそれらしい時刻を指し示していた。それにも感動した。

「さあ、帰ろうか。一年に一度の大切な夜だったのに、あなたを奪ってしまった。壹岐さんに悪いことをしたかな?」

帰りを待ちわびた壹岐がこたつに入りながらうたた寝している姿が去来して桂はひととき疚しさに囚われた。