桂は太田川のひとつ東を流れる元安川左岸の土手を千江さんと河口に向かって歩いていた。夾竹桃の列が切れ目なく続いていた。行き交う人は誰ひとりいない。川はどっちに向かって流れているのかと考えた。振り子のように川面は右にも左にも揺れ動いている。二十年余の歳月ずっとここにいたような気がするのだった。

「わたしたちって静物のようにしか存在しなかったのかしら」

そのことばは桂には判じ物めいて聞こえた。しばらく経って静物画を桂は連想した。

「絵に描かれるとすれば何かな?」

「静物は時間を超越しているので、もう男と女のかたちをしていないことだけはたしかね」

手を触れたことは何回かあったが、その他のことはしなかった。したいのにできないこともあった。しかし千江さんがそんないわば下世話なことを言っているはずはなかった。木のベンチに並んで坐ると、

「ドンキホーテのカウンターにいるとき、わたしたちは二羽の鳥そのものです。羽ばたきすればぶつかり合うほど距離は近いのにやがてどちらか一羽が飛び立って消える。残された一羽はどうするの?  あとを追う?  追いたくても追えない。それが静物の宿命に思える」

「飛び立つのはどっち?  千江さんそれともぼく?」

「どっちでもあるわ。でもどっちかであって、二羽同時でないことが致命的です」

動物であって静物、男と女であるのに静物、真っ赤なりんごや優雅な花瓶のようなホンモノにはなれない。