書きあげる     山本かずこ

 

その人は耕している

黙々と耕している

 

その言葉が降りてきたとき

わたしは すでに 夢から覚めていた

 

その人とはわたしのことなのか

まわりをみまわしたが

誰もいなかった

「収穫はあったの?」

その人に尋ねてみたいと思った

「みればわかるでしょう」

わたしにはわからなかった

わたしにはみえなかった

その人はたった一人だった

目の前には原稿用紙があった

「淋しくないの?」

その人に尋ねてみたいと思った

「みればわかるでしょう」

わたしにはわからなかった

わたしにはみえなかった

 

電話のベルが鳴ったので

わたしはその人から離れた

「原稿はいつごろ書きあがる?」

尋ねられて

わたしはすぐに答えなければいけなかった

「あすの朝には」

受話器を置いたとき

その人のことを探してみた

まわりをみまわしたけれど

誰もいなかった

「あすの朝には」

答えたのはわたしだった

 

 

 

山本かずこ 高知市生まれ。「詩と散文」は毎月、更新していきます。

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