パゾリーニ探索8

詩二篇(パゾリーニ詩集『カトリック教会のナイチンゲール』から)

『アポロンの地獄』を読む

                                                                        兼子利光

 

 

 

「受難」(『カトリック教会のナイチンゲール』から)

                                          兼子利光訳(本邦初訳)

 

   受難 5

 

キリストよ、生きることの

限りない天空のなかをさまよう

あなたの哀れな息子たちに、

いままさに死につつある

あなたはこの終わってしまった

姿を残していく。

優美なる幼子、

軽やかな身体、

光り輝く巻き毛……

それは聖ヨハネだ。

無関心の雲のなかに

迷った我々を

このあなたの身体は

自身のなかに呼び出し、

自身に似せて

我々を創る。

 

 受難 6

 

キリストはその身体の

なかでうちひしがれる。

自身から遠く離れた

どんな燃え上がる平原を

その瞳は見たのか?

いまや、キリストは

全くの盲目で、

骨にとらわれたままだ。

瀕死の

血にまみれた

一羽の小鳥。

後背には、光

天は朽ちている。

谷間の方に

山の頂の方に

声は響かない。

最後のやさしい

葉音をさせて蛇は

巣穴に身を隠す。

おお、神よ

稲妻きらめく薄明のなか

なんという闇だ!

サマリアは

闇に呑まれ、

死がみずみずしい

花でおおわれた

墓場の上に鳴り響く!

悲痛な暗闇のなか

塵埃と枝葉、

声のこだまが

風にかき乱されて。