しらなみ  中野重治
こゝにあるのは荒れはてた細ながい磯だ
うねりは遙かな沖なかにわいて
よりあひながら寄せて来る
そしてこゝの渚に
さびしい声をあげ
秋の姿でたふれかゝる
そのひゞきは奥ぶかく
せまつた山の根にかなしく反響する
がんじような汽車さへもためらひ勝ちに
しぶきは窓がらすに霧のやうにも まつはつて来る
あゝ 越後のくに親しらず市振(いちぶり)の海岸
ひるがへる白浪のひまに
旅の心はひえびえとしめりをおびて来るのだ


 (今回はコメントなしです)