烏百態  宮沢賢治
雪のたんぼのあぜみちを
ぞろぞろあるく烏なり 

雪のたんぼに身を折りて
二声鳴けるからすなり

雪のたんぼに首を垂れ
雪をついばむ烏なり

雪のたんぼに首をあげ
あたり見まはす烏なり

雪のたんぼの雪の上
よちよちあるくからすなり

雪のたんぼを行きつくし
雪をついばむからすなり

たんぼの雪の高みにて
口をひらきしからすなり

たんぼの雪にくちばしを
じっとうづめしからすなり

雪のたんぼのかれ畦に
ぴょんと飛びたるからすなり

雪のたんぼをかぢとりて
ゆるやかに飛ぶからすなり

雪のたんぼをつぎつぎに
西へ飛びたつ烏なり

雪のたんぼに残されて
脚をひらきしからすなり

西にとび行くからすらは
あたかもごまのごとくなり


 この限られたディスプレイの中で、宮沢賢治の詩を横組みでアップすることは難しいことはあらかじめわかっていたつもりであるが、いざ真に実感するとむなしいものがある。賢治の詩を取り上げるのはこれで一区切りとするが、今回、それほど長くもなく、ルビもなく、横組みでも読みやすいと思われる詩はないかと詩集を繰っていたら、この「烏百態」に目が止まった。この夏の暑さを忘れさせる冬の詩であったからでもあろうか。「雪のたんぼ」と「からすなり」「烏なり」の文語的かつモダンなルフランが生みだすことばの微妙な差異の動きを味わいながら、同時に、からすを見る賢治の眼(意識)の動きを追う。最終行の「あたかもごまのごとくなり」が深い。(文責・岡田)