秋  高橋元吉
秋が来た
空を研ぎ雲を光らせて
浸み入るやうにながれてきた
すべてのものの外皮が
冴えわたつて透きとほる
魂と魂とがぢかにふれあふ
みな一様に地平の涯〔はて〕に瞳をこらす
きみはきかないか
万物が声をひそめて祈つてゐるのを

どこかに非常にいい国があるのを感じてゐるのだ!


 気がつくと、もう11月。いったい、俺はなにをやっているのだ……との思いに襲われる。それはともかく、このところ朔太郎の詩ばかり取り上げているのだが、理由がないわけでもない。日本の近代詩のなかから、21世紀に読む「今週の詩」を探すことはかんたんなことではなく、新潮社版の日本詩人全集をはじめとして、いくつかの全集、叢書の類に目を通すが、”21世紀を生きる近代詩”はそう多くは見えてこない。だが、それは歎くことでもないだろう。詩のなんたるか、歴史のなんたるかを、ただ知ればよいのである。
 高橋元吉(1893ー1972)は、前橋出身で、萩原朔太郎や萩原恭次郎と同郷の詩人。元吉を高く評価した朔太郎は、上記の詩について、「清明にして透純、真に秋空のごとく澄んだ著者の気品と、その永遠の未知国に対する浪漫的精神とは、この一篇の詩に尽されている」と云っている。この詩のポイントは「万物」という一語にあるのではないかと、しばしその「万物」に思いを致す。
 元吉は家業の書店、煥乎堂を継いだが、萩原恭次郎を煥乎堂に世話したこともあるようだ。かつて、前橋に煥乎堂を訪ねたとき、店頭にあるラテン語の看板(?)、”QVOD PETIS HIC EST MCMLIV LIBRARIVS KANKODO”(あなたの求めるものはここにあり 1954 書店 煥乎堂)と、店の二階にあった元吉の大きな写真が記憶されたことを思い出す。(文責・岡田)