《ゆび》
山本かずこ
目を開ければあなたのゆびさきが飛びこんできた、鏡のある一室。あの部屋で目にやきつけたあなたのゆびを見ている。いまは煙草を持つゆび、それをわたしにください。鏡のなかでいろんなことをわたしにしていた、ゆび。それをわたしにください。鏡のなかでわたしのからだがよろこんでいた、それをわたしにください。それからの日々、鏡のなかを抜け出したあなたのゆびは、くる日もくる日もわたしの目の前に立ち現れた。歩いていても、まるでわたしの道を封じるかたちで立ち現れた。だから罰としてそれをわたしにください。しめったゆびさき、乾いたゆびさき、血の色をしたゆびさき。もっといけないことをしたゆびさき。一度あなたのからだから独立して、あなたのからだにかえっていったそれを、わたしにください。
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