思い出さないこと 忘れないこと
(おもいださないこと わすれないこと)

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著者 山本かずこ(やまもと かずこ)
装丁  永畑風人
発行 1998年7月14日
定価  

本体1800円+税

ISBN 4-7952-2646-6

[収録詩篇]
(萩の旅) (ゆび) (部屋) (バランスについて) (風の音) (花の記憶) (窓の外の風景) (レインダンス) (道) (ガンジス河まで) (はる) (取材) (売買) (ルル) (告白) (二十歳) (恋の予感) (習慣) (蘭のかたち) (夜の記憶) (桜の意志) (ずっと長い夢を見ている) (自然) 

[帯より]
罰という言葉を手中にしているおんなはまるで神である。「罰として」、これを用いると世界は媚薬を飲んだのと同じように肉感的になる。 (芹沢俊介)


《ゆび》

山本かずこ

目を開ければあなたのゆびさきが飛びこんできた、鏡のある一室。あの部屋で目にやきつけたあなたのゆびを見ている。いまは煙草を持つゆび、それをわたしにください。鏡のなかでいろんなことをわたしにしていた、ゆび。それをわたしにください。鏡のなかでわたしのからだがよろこんでいた、それをわたしにください。それからの日々、鏡のなかを抜け出したあなたのゆびは、くる日もくる日もわたしの目の前に立ち現れた。歩いていても、まるでわたしの道を封じるかたちで立ち現れた。だから罰としてそれをわたしにください。しめったゆびさき、乾いたゆびさき、血の色をしたゆびさき。もっといけないことをしたゆびさき。一度あなたのからだから独立して、あなたのからだにかえっていったそれを、わたしにください。