雲がおりてきたら
山田正之
青春真っ只の中、「あなたは胸にぽっかり穴の空いたことはありませんか」と学校新聞のコラムに書いた憧れのマドンナから「お友達でいましょう」との返事に、儚い恋
も夢と消え、松原俊彦君の3畳の部屋で、石井護君の作った曲を歌っていた季節。
そのひとつに「雲がおりてきたら」があった。
雲がおりてきたら
わたしはそれにつつまれて
静かに静かに目をとじるでしょう
雲にのった私は
小さな街をみおろして
そっと涙をながすでしょう
青空に浮かぶ私には
握っていたい宝石や残したいことばも
小さな街の小さな恋の
小さなハートの小さな涙
「雲」や「小さな」や「涙」やそれを運ぶメロディには、甘さと、切なさと、愛しさ と、ほろ苦さが含まれている。何事にも胸の躍動とその裏側にあった不安が混在していた季節だった。
この曲を作った護は、もう、この世にいない。30を前に長野の山の中腹で命を断った。事故死だったのか自殺だったのか、はっきりとはしていない。
残された僕らは、いまだに「雲がおりてきたら」を生き続けている。
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