『仮想地下海の物語』
(かそうちかかいのものがたり)
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著者 佐々宝砂(ささ ほうさ)
装丁 永畑風人
発行 2002年05月25日
定価  
本体1800円+税
ISBN 4-434-01977-5 C0092 \1800E
判型 A5判 仮フランス装/120頁 並製糸かがり

[収録詩篇]
「仮想地下海の物語」序章 アノマロカリス 1パラサイト・パラダイス(トウメイネコ 黒衣の少女 吸血鬼 海へ)2ペルソナ・ソナタ(ソナチネ 海底にながれるゆるやかな旋律 メヌエット ロンド)3ジェンダー・ディソーダー(回遊魚たち 雄性成熟 反転 内なる回天)終章 ニッポニテス「A Japnese Prayer」 黄色い部屋 ゴミのない国で 「贋者アリスの洞窟の冒険」「エントロピー」1免疫機構2浸透圧3絶対零度「LOVE  STORY」「春風駘蕩」1春昼夢中2春雷放蕩3春宵夢中4春風駘蕩 

[跋/赤木虫太]
私にとって、佐々宝砂は詩を書くことの痛切を、世界を求めることの残酷を最もよく教えてくれる詩人のひとりだ。しばしば彼女自身は、三流怪奇詩人を自称する。絶滅種や怪物たちがにぎにぎしく繰り広げる饗宴、それは、月光の森につかのま映じた幻のように、どこか淡くゆらいでいる。    (部分紹介)



【仮想地下海の物語】

序章 アノマロカリス
佐々宝砂


 
下りてゆく。


氷河の層を貫き
(ウルム、リス、ミンデル、ギュンツ)
白亜の森を抜け昆虫と恐竜に挨拶しながらジュラを過ぎ
三畳紀ペルム紀石炭紀デボン紀シルル紀オルビドス紀
カンブリア紀。造山運動と大陸の移動と生命の爆発。


ハルキゲニアよ。ウイワキシアよ。
バージェス頁岩に封じられた奇態な動物たちよ。
その系統は本当に断ち切られてしまったか。
十四対のひれで泳いだという肉食大型生物アノマロカリスよ。
食物連鎖の頂点にあった生物がなぜ亡びたか。


泳いでゆく。


仮想地下海で私はアノマロカリスに出逢う。
傷だらけでくたびれてでもいまだ攻撃的なアノマロカリス。
私は嬉しくて哀しくて悲鳴をあげながら這いまわり
エビの尻尾みたいなアノマロカリスの摂食器官を撫でる。
私の脚が一本ひきちぎられ血が滴る。


仮想地下海は今夜もにぎやかに荒れているね。
私もあなたも凪いだ海などきらいだ。
そうだろう?
愛しい、愛しい、アノマロカリスよ。
もっともっと私の肉を食べておくれ。
そして声低く私に語っておくれ。


仮想地下海の物語を。