小さな泉
小林泰子
家族が増えて
たいせつな人が、またひとり増えました
あたたかい気持ちが
静かにわきでてきます
体中があまずっぱいにおいで満たされます
胸の奥でいつのまにかみなぎる白い乳のように
薄い舌で
上手に愛情を吸いだし
ごくごくと飲みほす赤ん坊
小さな体に詰めこまれたいのちの芽
あらゆる方向に伸びようとするちからの重み
吸えば吸うほど乳は出てきます
では
与えれば与えるほど愛はわきでてくる?
愛すれば愛するほど
人はやさしくなれるのでしょうか?
閉じていた乳首のように
わたしのやさしさは
それをあふれださせる出口をもたなかった
おさなごに見いだされた泉は
おのれに水があることを知って驚き
ふかく胸をぬらしたのです
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