『ウォーターカラーズ』
(ウォーターカラーズ)
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著者 小林泰子(こばやし やすこ)
装丁  
発行 2002年5月25日
定価  
本体1800円+税
ISBN 4-434-01772-1 C0092 \1800E
判型 A5変型判 / 76頁  仮フランス装 糸かがり

[収録詩篇]
watercolors 夏の水彩 小さな海 植樹 不良 いき 小さな泉 夏の光 You are not my friend. カゲムシ 椅子 走るこども 歩くこども 見えない少年 祝福 サイレント・ララバイ 箱船 あとがき

[帯文章]
小林泰子はwatercolorsで日常のキラキラする透明で美しい、すこしさみしい、あるいは哀しみの涙にみえる水晶体の世界を幼い子供たち、赤ちゃんを登場させてスケッチ風にヴィッヴィッドにえがいた。が、おそるべき才能はなんと高層マンション五階の我が家を箱船にして、都会の夜空のもと見えない洪水の中、静かにただよわせていることである。

(白石かずこ)



小さな泉
小林泰子

家族が増えて

たいせつな人が、またひとり増えました
あたたかい気持ちが
静かにわきでてきます
体中があまずっぱいにおいで満たされます
胸の奥でいつのまにかみなぎる白い乳のように

薄い舌で
上手に愛情を吸いだし
ごくごくと飲みほす赤ん坊
小さな体に詰めこまれたいのちの芽
あらゆる方向に伸びようとするちからの重み

吸えば吸うほど乳は出てきます
では
与えれば与えるほど愛はわきでてくる?
愛すれば愛するほど
人はやさしくなれるのでしょうか?
閉じていた乳首のように
わたしのやさしさは
それをあふれださせる出口をもたなかった
おさなごに見いだされた泉は
おのれに水があることを知って驚き
ふかく胸をぬらしたのです