『きみがわらっている』
(きみがわらっている)
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著者 松下育男(まつした いくお)
装丁 山沢美紀子   装画/松下江美子
発行 2003年6月24日
定価  
本体2000円+税
ISBN 4-434-03305-0 C0092 \2000E
判型 B6判 /68頁 上製糸かがり
[収録詩篇]
にぎる  かがみ  ねむりはね  泣いているときに  きみがわらっている  まち  おおきな せんしゃが  そういうことだよね  アパートのね  きみは きみのへやで  あいれん  これは  このごろ  ゆうびんうけが ぬれているのは  れんあい

沈黙を破って、松下育男の十五年ぶりの詩集『きみがわらっている』が刊行された。読者は、ここに、詩と沈黙の弁証法を超えて、「愛の言葉/言葉の愛」を見出すに違いない。
【帯文章】
松下育男が帰ってきた。
 そのことが、まず何よりも嬉しい。「あいつ、どうしてるかな」。なんて思うことにも寂しくて良い味はあるけれど、やっぱりこうやって一緒に過ごす一刻の味は格別だ。
 帰ってきた人が、いま問わず語りにぽつりぽつりと話しはじめた。あいかわらずの優しいまなざしで、しかし、全力で正確に言葉を選んで……。その繊細な逞しさが、そのまま帰ってきた理由を告げている。芳醇な味だ。 (清水哲男 )




ゆうびんうけが ぬれているのは 松下育男

ゆうびんうけが ぬれているのは

ふうとうのなかに

海がすこし はいっていたからだろうか 

 

きみのうえで

そらはあくまでも

たかく 

あてながきの まわりを

うみどりが きもちよさそうに とんでいる

 

びんせんを ひきぬく きみの

ほそいゆびも

もちろん ぬれてしまい

しずくをたらしながら

ぼくのおもいを

よみはじめる

 

めを とじれば

すいへいせんが ぐっときみへ

ひきよせられ 

 

きみのからだに まきついてゆく

 

よこはまし

あおばく

 

きみがすむ まちでは

いつも

まがりかどの むこうから

なみしぶきが

くる