【解説文】より
詩集のタイトル「かわいいホロコースト」という言葉が、おそらく田中エリスのたくらみを、ひとことで言い切っているのだろう。「かわいさ」と「ホロコースト」の折り合いを、どのあたりで付けようとしているのかが、この詩集の面白いところであり、その接合店は、全体を通してかなり複雑に揺れているように見える。
著者は、ナンセンス系の詩ばかりを書いているわけではない。たとえば、本詩集の中でもっとも端正な詩と思われる「UFO帝国」から抜粋してみよう。
土足禁止の赤絨毯。
値動きの激しい姫さまは
ひとときの休憩、二〇分。
口外禁止の料理店。
私の指を取り合いしている
青色の小鳥、喧嘩腰。
おそらく猥雑な世界のひとこまを描いたものであろうこの部分は、その内容に反して、きわめて透明で上品な語り口だ。日本語の詩のルールにのっとって、控えめな艶やかさが形象化されている。この詩の前後に収められた純日本風の数編の詩は、この詩人が、日本語の伝統のなかにしっかりと組み込まれていることを示している。このような、居住まいの正しい詩が、次のような詩と同居しているあたりが、この詩人の魅力ではないかと私は思う。
最終的には、インコなの。
でも途中までアメフラシ。
芸術が用意したでたらめなプールで
エラ呼吸と肺呼吸で交互に吸ったり吐いたり水陸両用インコです!
(「最終的にインコ」より)
(森岡正博 )
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