『かわいいホロコースト』
(かわいいほろこーすと)
注文する

 
著者 田中エリス(たなか えりす)
装丁 著者

 

黒門仁

 

発行 2003年9月24日
定価  
本体2200円+税
ISBN 4-434-03581-9 C0092 \2200E
判型 A5判 /128頁 並製糸かがり

[収録詩篇]
・もはや花の中で暮らせない インコのフーガ インコちゃんにお願いします 記憶ちゃんとそのインコ カフェブーム インコ誕生までのあらまし どこかで不正がなされてる 子羊ちゃん Dearはにかみ屋さん みんなが行方を追っている インカ・カイカイ幹部によりと見られる声明 かわいいホロコースト 五〇億のエシュロン 日清日露の子ども勢力 インコちゃんの下克上 マメカチインコ UFO帝国 ひとよ茸 
・最終的にインコ 無意味な進化をとげている 三匹の小さいタニシ カラカサおばけと見た景色 インコ先生のつもり 菜の花畑 インコニギニギ 電離層 ひとりあるきの「もっと光を!」 てんとう虫、太陽に返らず 孫一同 インコ学士の学園生活
・ 嘘つきインコと神経症の深い海 水温二六度 逆関数 大人顔 教護院 プレ・インコナイト 原始インコ  The Primitive Budgerigar  Kawaii Holocaust   あとがき

田中エリスの言語世界 ──森岡正博
プロフィール 


【解説文】より
 詩集のタイトル「かわいいホロコースト」という言葉が、おそらく田中エリスのたくらみを、ひとことで言い切っているのだろう。「かわいさ」と「ホロコースト」の折り合いを、どのあたりで付けようとしているのかが、この詩集の面白いところであり、その接合店は、全体を通してかなり複雑に揺れているように見える。
 著者は、ナンセンス系の詩ばかりを書いているわけではない。たとえば、本詩集の中でもっとも端正な詩と思われる「UFO帝国」から抜粋してみよう。

 土足禁止の赤絨毯。
 値動きの激しい姫さまは
 ひとときの休憩、二〇分。

 口外禁止の料理店。
 私の指を取り合いしている
 青色の小鳥、喧嘩腰。

 おそらく猥雑な世界のひとこまを描いたものであろうこの部分は、その内容に反して、きわめて透明で上品な語り口だ。日本語の詩のルールにのっとって、控えめな艶やかさが形象化されている。この詩の前後に収められた純日本風の数編の詩は、この詩人が、日本語の伝統のなかにしっかりと組み込まれていることを示している。このような、居住まいの正しい詩が、次のような詩と同居しているあたりが、この詩人の魅力ではないかと私は思う。

 最終的には、インコなの。
 でも途中までアメフラシ。
 芸術が用意したでたらめなプールで
 エラ呼吸と肺呼吸で交互に吸ったり吐いたり水陸両用インコです!
                  (「最終的にインコ」より)                           (森岡正博 )




インコのフーガ 田中エリス

私がインコになってから

先端少女ってほめられる

だけどときどき

宇宙人ってけなされる

気にしてないよ

インコだもん

 

インコになるといいことあるよ

バロメータが振り切った

抽出機能が高まった

アンドロギニュスに間違えられた

ウミウシくんの背中をさすった

風に吹かれてそわそわしちゃうね

 

お腹が空いたら共食いするよ

インコも食べるよ

オウムも食べるよ

おいしいらしいよ

 

死んだのならばインコはいらない

だって筋の運びが図式的

生きているならインコがお似合い

繰り返されるの、インコのフーガ