つながっていよう(部分) 大澤恒保
(略)お互いに行き来が困難になって以来、長いこと父とは電話でときおり声を確かめ合うだけだった。どちらからの電話でも、いつも「どう?」「ああ、まだつながってるよ」との会話で始まった。荒い呼吸音とともに父はいつもこう言った。まだこの世につながっているということだが、僕には「みんなとつながっているさ」という意味にも聞こえた。また、「つながっていような」と、電話を切る前にかならず彼は言った。僕は臨終の前の日に彼の手を握っている間、「つながっているぞ」と心中で繰り返していた。でも、翌朝、僕は臨終直後のその手に触れ、幽かな温もりだけを受けて、手を離した。かけた電話は当然つながらない。呼び出し音の代わりに「おかけになった番号は現在使用されていません」という声が返ってきた。僕は黙ったまま「ご苦労さん、ゆっくり休んで」と内心に念じて受話器を置いた。
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