【栞文章】より この詩集には、さまざまに姿を変える時間とその産物がならぶ。色のない日々。眠れない石。思い出となる〈私〉や〈君〉 。渋滞の道。恐ろしい百年。そして、時間のなかにとりのこされ、閉じ込められている〈迷子〉こそが、作者の歩き出した出発点なのだ。(時間、距離、雨 福間健二)
時間の中に閉じこめられた
神に似せてつくられたいのちたち
いまその中のひとりが
とぎれとぎれの
断続する溜息を友として
連続するこのとぎれない道を歩き出す
強いられた旅ならば
怒りを感じもしよう
懈怠の寒さに凍りつきもしよう
だが夜の布の中を手探りするこの感覚は
他人にうち明けることなど許されない
まぎれもない自分自身のものだ
苦い薬が健全な肉体を取り戻すように
辛さの中にこそある歓び
その悦楽とともに彼は行く
長い道
時に死と戯れ
生を弄ぶ
滅び去ったはずの愚かな旅路
毎日山の向こうを日は昇りまた沈む
自らへの愛のために
燃えている
星!
短い叫び
予測することが出来ないその瞬間を
ふたたび味わうために
その求道とともに彼は行く
時間から解放され
神のようにではなく
神になる
そのために
いま
道の上に降りた夜の露は
静かにきらめいている
無数のいのちとともに確かに
生きている