小さな顎のオンナたち
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著者 平井弘之(ひらい ひろゆき)
装丁 大原信泉
発行 2006年6月20日
定価  
本体2200円+税
ISBN ISBN4-434-07789-9 C0092 \2200E
判型 A5変型判(210×140ミリ)/98頁 上製糸かがり
[収録詩篇]
生霊 アンダンテ 一九五〇年の侵入禁止 赤い目白駅 おおカンムリ どうでもじいさん ライオン社 買物の道順 殺風景な解体 赤と青のマント かえでと蜜 神田川白昼MAP 裂けたまま 遠ざかる喪のための断片 赤羽空襲 気紛れぷんぷん岩沢すみ子 泉のほとりで冷たい顔になれ 書を捨てよ 街を捨てよ 冬の鏡面 策士哀れ 遠景 山の上で チョウが忘れた駅前の様子 横殴りの雨のなかに さえぐさ君について書く夜 弱き飛行機乗り 幻灯機 風の方角 動物JAZZの夢を見るなんて…… 分けていたもの 小さな顎のオンナたち 黒い果実の白い果肉

【栞文章】より
喩の森を越えて、忘れ女のいる街へ
あなたのポール・マッカートニーの位置から
ひとりきりで泣き出すのはごめんだ



生霊
平井弘之


ぼくは質問した

演習はいつから始まるの

蛇の頭がこたえた

山のなかで明日から

鎌倉千絵子のながい顎にむねの先っちょを押しつけながら

民宿にてドイツ林業のマニュアルを読んで

今日のうち少しやっとこう

進め

ぼくはいつも迷った

かさかさの千絵子が教室へのとうろくをすます前

巨樹ツアーの件でもっとぴしゃりとやって置くべきだった

ふたりとも両手の親指が肥大していた

そう思っていたけれど 

西日色のハッチをこじあけ

なかに入っていった訳でもない

 

一日たってぼくはいらだった

蛇の頭は頭しか見えなかったので蛇の頭であったのだが

じつは滝を登るうなぎで

民宿もこのうなぎの所有物なのだと云う

千絵子はやっぱり顎を押しつけて

命はみんな濡れているのよと哀願

演習はまだか