生霊
平井弘之
ぼくは質問した
演習はいつから始まるの
蛇の頭がこたえた
山のなかで明日から
鎌倉千絵子のながい顎にむねの先っちょを押しつけながら
民宿にてドイツ林業のマニュアルを読んで
今日のうち少しやっとこう
進め
ぼくはいつも迷った
かさかさの千絵子が教室へのとうろくをすます前
巨樹ツアーの件でもっとぴしゃりとやって置くべきだった
ふたりとも両手の親指が肥大していた
そう思っていたけれど
西日色のハッチをこじあけ
なかに入っていった訳でもない
一日たってぼくはいらだった
蛇の頭は頭しか見えなかったので蛇の頭であったのだが
じつは滝を登るうなぎで
民宿もこのうなぎの所有物なのだと云う
千絵子はやっぱり顎を押しつけて
命はみんな濡れているのよと哀願
演習はまだか |