【帯文章】より 「自由人。いい言葉だ。」 時空を超えて飛翔する言葉とものたち。 恋の歌から、独自の「戯曲風詩編」まで、 自由な精神が織りなす、生のカレイドコープ。
横須賀にて叙情詩をつくつてみませう 秋川久紫
横須賀の海辺に
わかめが干してある
バーの立ち並ぶ路面には
どんな夜の喧噪が味はい尽くされてゐたか
その中に何軒の外人相手の店があつたのか
昔は娼家ででもあったのか
今 化粧のはげ落ちたやうなこの街に
海風の絶えぬこの街に
洗濯ばさみで止められた何万枚もの細い女の髪
もの言はぬわびしげな女の食欲
例へばこの街に
初めての夜を過ごしにやつて来た男女達は
潮の香りと旅の愁ひに満ち足りて帰つたが
おそらく幾多の女の微かな悲鳴を
夜の若いしぶきの中で聞きのがしたに違ひない
軍艦マーチも
<幸福な家庭>の幻に憑かれた娘の唄声も聞こえないが
このどんよりした昼のたたずまゐの中に
さり気なく