誌の雑誌 midnightpress 23
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2004年春 23号(2004年3月5日発売)

【主な内容 】
●詩作品 木島始 阿部裕一 ぱくきょんみ 杉本徹 関口凉子 中村剛彦 小林泰子 五月女素夫 山本かずこ●連載詩 三上寛 元山舞
●critic 2004 いま、私が考えること 藤井貞和/ハズレイカとクリエイティブ 長谷部奈美江
●アンケート2003年、一冊の詩集、一冊の本。/佐々木浩 鶴見俊輔 大家正志 豊原清明 安田有 須永紀子 元山舞 新井高子 愛敬浩一 八木忠栄 萩原健次郎 柴田千晶
●連載 詩想の泉を求めて4/惟然は古き瓢を打ち鳴らし 井上輝夫 /白紵歌3 飯島耕一/インコ・コツコツ・スキャンダル/田中エリス
●一篇の詩 飯田保文●書評 辻征夫『詩の話をしよう』/中村剛彦
●連載対談19  現代詩の新しい扉を開く 谷川俊太郎+正津勉 ゲスト/四元康祐
●poetic dialogue 詩の公開とは何か 瀬尾育生×稲川方人
●平居謙の「ごきげんPOEMに会いたい」 ステージ2  敗者の言葉を担う者 久谷雉の巻
●詩の教室 高校生クラス 清水哲男 一般クラス 川崎洋
●その他の執筆者  大澤恒保  長谷邦夫 高取英 ハルノ宵子 松岡祥男  根石吉久 八木幹夫
 
■表紙タイトル文字/谷川俊太郎
■表紙「デイジー」・目次・本文イラスト/永畑風人
■写真 野口賢一郎



谷川俊太郎氏が、あるところで次のように語っていた。「詩に感動する人にもいろんな層があって、かなり洗練されたものでないと満足しない人もいるし、わりとポピュラーなところでいい人もいる。僕は全部ひっくるめて詩の世界だと思っています」。■一見、かんたんに語られた言葉のようであるが、実は意外と深いところを衝いた言葉ではないだろうか。僕には、いま書かれている様々な詩の差異を云々するよりも、詩と詩でないものとの差異をこそ見ることが大事だと、そう語られている言葉であるように思われる。■昔から、そしていまも、詩は様々に語られている。たとえば詩は言葉の芸術である、という言い方があるけれども、詩は芸術であるという言い方には近頃なじめないものを覚える。芸術というよりも、詩はむしろ「宗教」に近いものではないだろうか。「宗教」というと誤解を招くかもしれないが、詩とは魂の(あるいは「精神」といってもよいが)運動ではないだろうか。文字として、言葉として定着されたものが、詩として目の前に置かれるとき、我々はそこに魂の痕跡を見ているのではないだろうか。そう思って、古今の詩を──万葉の歌でも、マラルメの詩でも、わが現代詩でも──あらためて眺めてみると、このアイディアはそれほど間違っていないようにも思えてくる。■そしてまた、たとえば、詩の第1行目は神から与えられたものである、といわれる。なるほど、ここには、ある真実が含意されているかもしれない。だが、もとより、詩人は神にすべてを委ねるものではない。人為を超えたものとの渉り合いが開始されるだろう。そのただなかから、意図せざるものとして、なにものかの痕跡として、詩は到来する。■そんなことを考えながら今号の対談二本のゲラなどを読んでいると、いつしか校了ギリギリまで誌面をいじっていた。これからも、一号一号、大胆かつ繊細に更新していきたい。■創刊4号から連載されてきた長谷邦夫氏の「ポエトリー・コミック」を今号で一区切りさせていただくことにした。長谷さん、長い間ありがとうございました。なお、井坂洋子氏の「近代詩の通い路」は休載させていただいた。(お)・/p>


詩作品のなかから

スケルツオ(冬)
阿部裕一


「消費」する人でなく「読書」する人に会いたい
しょうひするひとでなくてどくしょするひとにあいたい
人恋しさの「恥ずかしさ」を表意の文字といっしょに「漂白」し
この冬はしてきた「事実」を拾い集めて焚き火にして
指先を暖めるしかない「ものすごい」寒さだ
ゆびさきをあたためるゆびさきをあたためる
心の振動をどうして隠そうとするのだろう(かくそうとする)

淋しいのはきみだけではないだろうということ?
送られてきた「手紙」にそんな返事を書いて出しそこねて
陽だまりをたどるようにして町を「半日」歩き
ひだまりをたどるようにしてまちをはんにちあるき
「理」を尽くして「POESIE」を擁護しようと思案するうちに
今も会いたい死者たち(渋沢さん諏訪さん)に囲まれていた
いまもあいたいししゃたち(しぶさわさんすわさん)にかこまれていた

足取り早く逃げるように町はずれの漁港に行き着けば
海は蒼く氷のように張りつめている
うみはあおくこおりのようにはりつめている
何故死なずに生き永らえているのか?問いかけることで自らを慰め
といかけることでみずからをなぐさめ
生きるために「食い」「ねむる」鶸たちの鳴き声に嘲笑され蔑まれ
「反骨・反逆」の暗い眼差しで焼絵ガラスの空を見上げる


そうして「落日」の「みかん色」に耐えられずに涙をながし
らくじつのみかんいろにたえられずになみだをながし
この冬は「ものすごい」寒さだ この冬は「ものすごい」寒さだ
ひとり凍えるルフランに踊るように唄うように
生まれて後の「選択肢」を増やし続ける産業社会の「欺瞞」に抗う
うまれてのちのせんたくしをふやしつづけるさんぎょうしゃかいのぎまんにあらがう
激しい言葉をワープロの画面に「怒り」を篭めて叩きつける

本当にここでない何処かに本当にここでない何処かに
ほんとうにここでないどこかにほんとうにここでないどこかに
本当にここでない何処かに本当にここでない何処かに(生まれたかった)
ほんとうにここでないどこかにほんとうにここでないどこかに(よみがえるよみがえる)
「甦る」本当にここでない何処かに「甦る」(渋沢さん諏訪さん)
この冬はしてきた「事実」を焚き火にして指先を暖める
ゆびさきをあたためるゆびさきをあたためる(よみがえるよみがえる)